書留。

壁打ち用です。

【了】甘く優しいしがらみを残して

「……あたまが痛い」

「え、どうしたの?」

 

何の脈絡もなく、ロックオンが言った言葉をアレルヤは聞き逃さなかった。

いつもの本の貸し借りは、感想会になったり、映画化していればその映画を見たり、たまに茶会になったりする程度には2人の距離は近くなっていた。

そのまま借りた本返してもらった本を読み耽る事もままある。

今日は後者で、ロックオンの部屋でだらだらと無言の読書会だった。

金太郎飴のような代わり映えのしない部屋の、備え付けの椅子ではなく、デザイナーズブランドのリクライニングチェアーからアレルヤは腰を上げた。

この椅子はロックオンの趣味らしい。さすがにベッドまでは持ち込めなかったようで、彼はアレルヤの部屋にもある同じ作りのベッドの上で寝転がっていた。

その傍にアレルヤは腰掛け、顔を覗き込む。

 

「ん、んん〜……眼精疲労?」

「ちょっと、それは気を付けてよ。そろそろ帰ろうか」

 

本を投げ出してロックオンは目頭から眉間にかけてをぎゅっとつまんだ。

彼の言う通りであるなら、この読書会は終了した方がいい。

狙撃手の眼を労って、アレルヤは立ち上がろうとした。

 

「ホットタオル作って来てくれよ」

「えっ?」

 

何気なく。珍しく。

その頼み事にアレルヤは驚きの声をあげた。

しかしその意味を表現する事なく、そのそぶりを隠す。

 

「ああ、うん、そうするね、待ってて?」

 

彼のおねだりは珍しい。だからオーバーアクションをしてしまうと、それを恥ずかしがってお願い事は引っ込められてしまう。

だから何気ないようにしておかないといけない。

 

アレルヤは駆け足で、少しだけ頬を緩めて、食堂へと向かった。

 

***

 

「あ〜っちぃ〜〜きもちい〜〜〜」

「熱すぎた?ごめんね、加減がわからなくて……」

「へーきへーき、どうせ濡らしてないからすぐ冷めるし」

 

艦内は水分厳禁だ。シャワールームや水場は確保されているが、それ以外の場所に水分を持ち込まないように、ドリンク類はチューブに入れられている。

カイロのように発熱するものを持って来たのだから加減も何も無いのだが。

 

「なあ、膝貸して」

「……いいよ」

 

ぽす、とアレルヤの太腿の上に頭をあずける。

タオルでロックオンの表情はアレルヤには見えない。

 

「こーゆー時って、頭マッサージするといいんだっけ?」

「いってえ!」

「あ、ごめん」

 

ぐにぐにとロックオンのこめかみを指で押す。

 

「そこはダメなとこだろ!いてえ!!やるなら端末調べてくれ」

 

ポイントが悪かったのか、かなりの激痛が伴ったらしい。

端末で調べながら、ゆるゆると頭皮に指を差し込む。

 

「……」

「かったい……」

「頭蓋骨だよ」

「んん〜これちゃんと出来てるのかなあ……?」

「最初よかマシだ」

「頭痛のほうは?」

「いくらか」

「……もう少し練習させて……」

 

「……ロックオン、ねた?」

「……」

「ねてるね……」

 

「ふあ……なんか手、あったかくなってきて……ぼくも……ねむ…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「もう少し、あまえてね……」

 

ぽつりとアレルヤは呟いて手の力を抜いた。

瞼が落ちてくるのを感じながら、微かに指先に触れる髪を撫でる。

 

せめて今の瞬間だけは、その固く閉ざした心を、